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 接客の本質とは
茶道と接客の密接な関係

現在までの研究で商業に於ける接客という言葉は、明治時代後期から大正時代初期にうたわれはじめたと考えられます。それまでの接客とは、家庭にやってきた客人をもてなす事を指しておりました。

そんな家庭内での接客の作法がある程度定められ始めたのは、明治23年に刊行された「女子作法書」がきっかけと考えられます。それまで寺子屋などにおいて孔子の論語を暗誦するなどの教育はある程度受けていた婦女子ではありましたが、人との交流や社会人としての女性を成長させる目的でも、女子作法書のような刊行物は数多くあったと思われます。

思われます、考えられます、と言うのは現存している資料が極めて少ないためであり、学術的に正確な情報を導き出すことが困難だからです。ただ、そんな刊行物を一冊ずつ紐解いていくと、ある共通した事実に気がつきます。全ての作法書には、共通して家に来た客人をいかにもてなすか、について具体的に記述していることです。

それら作法には、茶道の作法に通じるものが極めて多く、すなわち当時より接客はイコールで茶道のもてなしと結ぶことが出来たのでしょう。とはいえ、明治時代当時に茶道に修道するというのは富貴な家柄でなくては出来ず、多くの国民にそれを促すことも出来ませんでした。

そのため、茶道における様々な所作や作法を要に応じてピックアップし、女性の作法として定義しようとしたものが、女子作法書だったのでしょう。そんな女子作法書は、どうやら当時の旧制中学校の女性向け教科書として使用されていた可能性が極めて高く、つまりこの刊行物は国が指定した「婦女子のあるべき姿」を教育するために、全国で広く使用されていたのです。

女子作法書の教育を受けた人々は、その中に記載してある「もてなし」の方法について詳しく学びました。その「もてなし」の基礎として使用されたのが、茶道だと言えるのです。

 

家内の接客から商業の接客へ

昭和20年8月、日本は大東亜戦争(第二次世界大戦)に敗戦しました。そのさらに9年前の昭和11年、神戸のとある新聞社から重要な記事が発行されました。

記事名は、左記画像で見たままです。「接客法の改善こそ最も効果的宣伝」と謳ったこの記事は、現存する確認された資料の中では最も古い、商業に「接客」が浸透していた証拠です。この記事から当時の風潮を解釈すると、商業における接客は、この少なくとも10~20年前にはすでに始まっていたものと思われます。この記事こそ、日本で始めて「商業に於ける接客」を説いた極めて貴重な資料です。

また、昭和12年には京都の商工会議所からさらに重要な冊子が刊行されました。「商店の繁栄と接客技術」、と題されたこの記事は、アパレル店など小売業における接客について、かなり詳しく言及しています。このように、日本経済黎明期には接客や接客技術についてかなり詳しく研究が進んでいたものと思われます。

しかも、そのような具体的サービスの部分に言及する研究は世界でも類を見ず、すなわち日本はこの時点で既に「サービス大国日本」の片鱗を見せ始めていた、と考えてもおかしくありません。学術研究の世界に、はじめて現場労働者のサービス応対技術が取り込まれ始めたのです。

また、この頃には既に「女子作法書」やそれに似た様々な刊行物や文献によって訓育された女性達が店頭に立ち、その礼儀作法や所作を様々な部分で発揮し始めていたものと思われます。現代に於ける接客の基礎を築いたのは、まさにこの昭和初期前後のことだったのでしょう。

 

接客の本質

これらの文章を読み取っていくと、やはり接客には茶道の作法や所作が強く影響している事を確認する事が出来ます。つまり、茶道のもてなし→家内接客→商業接客、と言う文化成長の構図が簡単に描けるのです。それは、現代の接客にも共通しており、だからこそ多くの人が「お客様をおもてなしする」と言う表現を使いたがるのでしょう。

さて、そうした背景にある「もてなしの本質」とは、一体何なのでしょうか。それを知るためには、軽く海外のHospitality文化について触れておく必要があります。

海外のホテルに行くと、決まって必要なのがチップ。ベッドメイクに対してのチップや、ルームサービスに対してもチップを払わなくてはいけません。そして、チップの金額によっては際限なく青天井なサービスを受けることが出来ます。むしろチップを払わない場合、ほとんど何のサービスも受ける事が出来ない場合も多々あります。

なぜなら、チップとは、それを受け取る人達にとっての生活の糧だからです。だから、高いチップであればあるほど、ハイレベルなサービスを受けることが出来るようになるのです。要は、外国のHospitalityと言われる客人歓迎の文化は、打算的だ、と言う事です。

それに対して日本のもてなし文化はどうでしょう。お客様とあれば、原則誰もが平等な接客を受けることができます。無論、金額によって提供される商品の質は変化しますが、それでもチップが必要な文化に比べると、誰もが平等に受けられる最低限のサービスは、かなり高いレベルにあると言えます。

このことは、茶道の大家である千利休が「貴賤平等」と言う言葉で、茶室に入る上は貴賤上下関係なく、誰もが平等にもてなしを受ける事が出来る、と定義したことに始まります。それだけではありません。利休の弟子が、ある日利休にこんなことを尋ねました。

「茶の湯のもてなしで、大切な事とは何でしょうか」
利休は次のように答えます。

「茶は服の良きように点て
炭は湯の沸くように置き
花は野にあるように
夏は涼しく冬暖かに
降らずとも雨の用意
刻限は早めに
相客に心せよ」

弟子は、「そんな事ぐらいは解っておりますが、その極意を授かりたいのです」
しかし、利休はこう答えます。

「もしこの七つが完璧に出来ていると言うのであれば、私はあなたに弟子入りしましょう。」

この七つは、「利休七則」として没後420年経った現在でも語り継がれています。そして、これの利休七則こそが、もてなしの本質、そして接客の本質とも言えます。

現在の接客やマナーを教える世界において、このことがどれだけ語られているでしょうか。どれだけの講師達が、表面的なマナーやエチケットだけで講師を名乗っている事でしょうか。接客とは、どこまでも奥深く、追求し始めると本当に終わりがないものです。

このページでは、接客の本質について、一部だけ紹介させて頂きました。これ以上深い部分をお知りになりたい場合は、是非当社の公開講座を受講してみて下さい。

2011年9月
小早川護

 
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